「企業に応募する時には、まずどの条件を最優先にするのかをきちんと決めておいたほうがいい」
どこかでそんなアドバイスを読んだような読まなかったような、うっすらとした記憶が頭の片隅にある。
けれど当時は、このアドバイスをあまり重くは受け止めていなかった。
50代の中高年が再就職をしようとしたときに、条件のことをあれこれ言っている余裕が果たしてあるのだろうかと、そんなことを考えていたんじゃないかと思う。はっきりした記憶はないのだが。
ただ、転職活動の初期の頃、夫に
条件面での優先順位は?
とたずねたことはある。返ってきたこたえは
とにかく就職すること。
だった。
確かにそうだよね、と私もすんなり納得してしまった。これが後になって大騒ぎの火だねになるとも知らずに。
優先順位はしっかりと決めておく
最初に言ってしまうと、夫の再就職先が決まった。
ここら辺の経緯については、別記事で詳しく書こうと思っているが、ありがたいことに2社から内定をいただいたのだ。
まもなく54歳になろうかという中高年に、はたして正社員の道はあるのか?と半信半疑ながらの転職活動だったので、この知らせを聞いてうれしかったことは間違いない。
当初の私の勝手な脳内イメージでは、内定が出たその日の夕飯は出前のお寿司のはずだった。
が。
実際には、優先順位をきちんと決めていなかったために、この2社のどちらに就職すべきか、しばらくの間夫婦で話し合う毎日となってしまった。
これだけは譲れない!という優先順位をきちんと決めていなかったために起きた、ちょっとした騒動だった。
優先順位はしっかり決めておくべきだった。
この点に関してはいまだに反省している。
せっかくいただいた内定を素直に喜ぶことが出来なかったのは、夫に対しても、また内定を出してくれた相手先企業に対しても、本当に申し訳なかったと思うのだ。
職種、勤務地、給与……。わが家の場合
仮にA社、B社とする。
A社は職種、給与面ではほぼ希望通り。しかし県外の企業のため定年までの単身赴任が確実。
B社は自宅から通勤が可能。しかし未経験職種のため、給与がかなり下がる。
職種に関しては夫はそれほどの強いこだわりを持っていなかったので、どちらで働いても良いとのことだった。問題は
勤務地と給与のどちらを取るか
だった。
私は給与が大幅に下がったとしても、家から通える範囲の会社に魅力を感じていた。未経験ということで、給与は今が最低ラインでこれから上がる可能性のほうが高かった(会社、人材紹介会社ともに確認済み)。
最初の数年が辛くとも、私も働けば何とかなるんじゃないかと考えたのだ。
対して夫は、たとえ単身赴任になったとしても、給与の高い会社にしたほうが良いとの考えだった。
企業の安定性からみてもこちらのほうが段違いに上だし、そもそも前の外資系にしたって、在職中の約半分は単身赴任だったのだから、それが少しだけ長くなると思えば、大した問題ではないだろう、と。
もちろん働くのは夫だし、最終的には夫の決断が最優先なのだけれども、夫自身「問題がない」というそのそばから、
でも、やっぱり単身赴任もなぁ。
との思いも頭をもたげるようで、すぐには結論が出なかった。
ここで私が、
お給料の高いほうが絶対いいよ。6年なんてあっという間だよ、そうだよそっちの会社にしちゃいなよ。
と背中を押せれば良かったのだが、そもそもが単身赴任に反対だったので、事態が余計にややこしくなった。
もしもここでA社を選んだ場合。
60歳の定年後に、65歳までの再雇用制度を利用するかどうかも問題だった。利用した場合には、6年ではなくて、11年の単身赴任になる。
利用しないで帰ってきた場合には、今度は60~65歳までの年金のない期間、ちゃんと生活していけるのだろうかと不安になる。
事情があって、私が夫の単身赴任先で一緒に生活する(移住?)という選択肢もほぼない。
そんなこんなで、結局3日間も話合いを続けることになった。
結婚してずいぶんたつが、こんなにも時間をかけて、お互いの意見を言い合ったことはないと思う。いや、思うじゃなくて、絶対にない。
そういった意味では、これからの生活を見つめ直す良いきっかけになったし、夫の考えていることも前よりは理解できるようになった(かもしれない……。ここに関しては自信ないです(笑))。
超ポジティブに考えれば
今回の転職活動があったからこそ、今まで生活を改めて見直すことができた。
ということになる。
で、3日も話合いをしてどうなったかと言えば、
結局結論が出なかった。
転職アドバイザーに相談
今回の転職を通じて、夫が信頼を寄せたアドバイザーさんがふたりいる。そのうちのひとりGさんに夫は電話をかけた。
その時のやりとりを私は直接聞いていない。
後で夫から聞いたところによると、Gさんはこうアドバイスしてくれたらしい。
あくまで一般論としての話ですが。
それだけ年収に差があって、しかも一方は今までの経験を生かせる職種、もう一方は未経験職種ともなれば、たとえ単身赴任であったとしてもA社を選んだほうがいいのではないでしょうか。
大手で、しかも同族会社でもないんですよね。
たとえばA社が同族会社で、単身赴任先で解雇に遭う可能性が多少なりともあるのならまた話は別ですが、今の条件をうかがう限りA社ではないですか。
——
Gさんの言葉に夫は心を決め、A社に就職の意志を伝えた。
人と言うのは、その問題があまりに身近すぎると、逆に個人的な感情が入ってしまって冷静な判断が出来なくなるものらしい。
何よりも家から通えるかどうかが大切だと思っていた私なんぞは、Gさんの言葉を聞いてはじめて
そういえば企業の安定性のことなんて、頭の中からすっかり抜け落ちていたよ。
と自分のうっかりさに気が付いた。
もちろんB社だって、決してブラック企業というわけではない。50年以上続く会社であることに加え、事業内容もしっかりしている。
ただ、大手ではないこともあって、完全なる同族経営ではないものの、それに近い雰囲気はある。トップが夫のことを疎ましく思えば、すぐに解雇(というかまた退職勧奨?)の可能性もゼロではない。
Gさんの立場から、客観的にA社と言われてはじめて、確かにそうかもしれないと私も納得をした。
100%納得したのかと問われれば、正直、まだ100%には達していない。
今でもまだ
単身赴任になることがわかっていてわざわざ県外の会社に就職するってのはどうなのよ。
の気持ちはある。
けれど、当初の優先順位は「とにかく再就職すること」の夫の言葉を思い出せば、ぜいたくは言ってられない。
数年後に、あの時の選択は正しかったと思えたらいいなぁと、今はそれを願うばかりです。
まとめ
最初から優先順位を決めておけば、最終決断の時に迷わなくて済むかといえば、そんなことはないだろう。
なんたって転職は人生のターニングポイントでもあるのだ。
何らかの打算や思惑、これからの期待と不安が判断を鈍らせることだってあるはずだ。
けれどそんな時でも、優先順位がきちんと決まっていれば、悩みの度合いも低く、決断への道のりも近い。
優先順位を決めるのなんて、職務経歴書を書く苦労にくらべれば、何てことはない。
頭の中でちゃちゃっと考えて、必要ならば紙に書き出す程度の簡単な作業だ。たいした手間ではないのだから、これから転職活動をしようと考えている人、あるいは転職活動中だけれども優先順位は考えていなかった人には
条件の優先順位をきちんと決めておくことを、強く強くオススメする。
絶対に決めておくのだ。
絶対に、だ。